ぱんこの日記

ていねいなくらしのために、ゆらゆら書きます。

趣味の遍歴①(社会人編)

「それでは、自己紹介をお願いします。名前、所属、趣味、一言を言ってください」

名前、よし。

所属、よし。

趣味、……うーん。何言おう。

 

私はいつもこうだった。趣味が、ない。思いつかない。趣味って、なんだろう。

映画かな。でも、人に語れるほど見てないし、映画みたらだいたいすぐ忘れちゃうしなぁ。好きな映画なんですか、って聞かれたら困る。語れない。うん、却下。

じゃあ、散歩か? たしかに休日ゆっくり歩くことは好きだ。電車に乗らずに1時間くらいかけてあるくこともある。でも、これって趣味っていっていいのか? ただ歩くのが好きって、呼吸するのが好きって言ってるくらい当たり前のことじゃないか? そんなの堂々と「趣味」としてしまうのは、気が引ける。

 

あぁぁぁぁ、困った……。

 

私は趣味が欲しかった。自己紹介の時のためだけではない。休日をもっと充実させたかった。自分のアイデンティティを持ちたかった。趣味はヨガですとか、料理ですとか、言えちゃう人がうらやましかった。それだけで、立派な人に見えたし、キラキラして、堂々としているように見えた。今思えば、どれだけ卑屈だよ、と思うけれど、そう思ってしまっていた。

 

だから、何かと手を出しては、引っ込めるということを数年続けたのだ。

 

いつだかの正月休み。大学からの親友から連絡がきた。

「めぐ、タヒチアンダンスやってみない? 体験授業が1000円でできるよ~」

タ、タヒチアンダンス? 何それ! まったく想像つかないんですけど! なぜ急にタヒチアン? しかも正月に……。まだ、日本舞踊なら納得できた。だって気分は、もろ「日本」だから。寒い寒いお正月。それなのに、なぜ、南国タヒチ! よく分からない……。

けれど、すぐにスマホで調べてみたら、南国タヒチの肌の黒い女性が腰にワラみたいなものを巻いて踊っている写真を見つけた。

ほほぅ。これがタヒチアン……。うん、悪くないかもしれない。もしかしたら、ダイエットになるかもしれないし、もしかしたらもしかしたら、妖艶な女性になれるかもしれない。そう、私は、「女性らしさ」や「色気」を常日頃から欲しいと思っていたのだ。これはちょうどいいかもしれない!

「うん! やりたい!」

単純にも、すぐにこう返事を送っていた。

 

たしか1月8日とかそのくらいだったと思う。私たちアラサー女子2人は、池袋のタヒチアンダンス教室にいた。

トコトコトコトコトコ……早いリズムで響き渡る、太鼓の音。

その音に合わせて、腰をぐるぐる回して、前や後ろに移動する。

 

前面鏡ばりのスタジオには、カラフルでオシャレなパレオを巻いた、生き生きした女性たちが10人ほど。

先生は鏡に一番近いところで、おへそを出してこれまた「タヒチから抜け出てきました!」と言わんばかりのタヒチアンスタイル。黒いロングの髪にで、どことなく肌も黒く見えた。

鏡に一番小さく映る私たちは、もじもじして頼りなく、2人だけ異空間にいるようだった。だって、なんでもないティシャツに、受付で借りた、単色でオシャレでもなんでもないパレオを腰に巻き、ビジター臭をプンプンに放っていたのだから。

 

はい、タイリ〜!!!

 

腰を動かしながら、先生が次の腰の動きの指示を出す。タイリとは正式には、タイリタマウ。上半身は立てたまま、腰を落とし、左右に振る動きのことだ。

 

ゴキ、ゴキ、ゴキ。

 

私のなまった腰は、変な音を立てる。うわ、これ、すごいな。腰のフル稼働だ。いい運動になるかもしれない。この原始的な太鼓のリズムもなかなか心地いい。これはいいかもしれない。

 

はい、ファーラップーーー!!!!

 

先生の指示は止まらない。これは、とにかく早く腰を回し続ける。つ、ついていけない。これは初心者にはきついな。

 

でも、終わった後の爽快感たるや、素晴らしかった!  汗をかき、一曲を踊り終えた後の笑い声、そしてなにより達成感!!!  

やってみたい、これはやってみよう!  

レッスンが終わると、すぐ受付に立ち寄り、契約を済ませていた。

(誘ってくれて親友は、残念ながら脱落してしまったけれど)

 

ということで、ここから一年ほど、タヒチアンダンスにのめり込むわけなのだが、一通り踊れるようになったことと、発表会の衣装だけで5万近くかかることを理由に、辞めてしまった。

 

しかし、社会人になってからの初めての習い事。とても充実していた。お友達もできて、一緒にご飯を食べたり、振りについて語り合ったり、今までにない環境だった。

 

あぁ、習い事って、趣味っていいものだな、と改めて思えた1年間のタヒチアンライフ。ただ、なぜか、この習い事を堂々と言うのは憚られた。たぶん、自分にはタヒチアン要素が少ないと自覚していたからだろう。

 

ともあれ、趣味っていいものだなと実感した私は、次の趣味を見つける旅に出かけることとした。