新社会人に告ぐ
4月になると、電車やホームには真新しいスーツを着った若者たちが、ひとかたまりになっていて、そこだけピンク色のような黄色のような、とにかく明るい空気があって、その他のひとたちとは明らかに違って楽しそうしている。
そんな光景をみるたびに、12年前の新入社員だった自分を思い出す。
あー、私もあんなふうに浮き足立ってたのかなー、あんなに風に仲間とキラキラしてたんだったっけなー、とか漠然と思う。
けど、まてよ。
違う、そうじゃない。
私は、あんなふうにキャーキャー言って笑ったり、つるんだりしなかった。
一緒に通勤したり、どこかで待ち合わせてお茶をしたり、してなかった。
頭の中のどこを探しても、かき分けて探しても、どうしたって見つからない。
なぜなら、私は「同期」とつるむことを異様に嫌っていたのだ。
そのときの私は、かたくなに、そしてあからさまに同期との付き合いを避けていた。
まるで、犬嫌いな人が、犬に好かれて、逃げ回っているかのように。
研修が定時の17時15分きっかりに終わった途端、誰かが言い出す。
「今日も、だんらん(近くの居酒屋の名前)ねー!」
「いこー!」
60人超いる同期が、思い思いに研修会場を出て、そのまま居酒屋に直行する。
ほぼ毎日、だ。
私は家が遠いことを理由に、そろそろと誰にも気づかれないように帰ろうとする。
でも、決まって気づかれてしまう。
「あれー! 帰っちゃうのー? いこうよー!」
人懐っこい同期は、何度断ってもめげずに何度も何度も誘ってくれる。
気持ちは嬉しい。
けれど、私は同期に味方はいらないのだ。
私の味方は、中学や高校や大学の友達だけであって、それだけで大丈夫。
それだけでお腹がいっぱい。
だから、いらない。
仲良くしたいなんて、これっぽっちも思わない。
社会人になってから、友達なんて作れるわけがないと思っていたし、作ろうとも思わなかった。
そもそも私は、大人数が苦手なのだ。
仕事だって、したくてしているわけではない。
付き合っている彼氏と3年くらいしたらきっと結婚するし、そしたら辞めるし。
だから、仲良くする必要なんてない、なんて思っていた。
なのに、気づいたら、もう12年経ってしまった。
3年したら辞めると言っていた私は、その4倍も長くこの会社にいる。
想定外。
本当に想定外、としかいいようがない。
それに、仲間なんて作らない?
そんなこと、今は口が裂けても言えない。
「今日さー、課長がまたくだらないことで怒ってさー、ほんとやんなるわー」
「隣の先輩が、朝っぱらから自席で爪切りしてるんだけど、ふっと横見たら今度は耳かきしてんの! 家でしろよだよなー?(笑)」
毎日、ランチで、ラインで、イライラしたこと、面白かったこと、悔しかったこと、どんなに小さなことでも共有して、そうしていることで平静を保っていられている。
こんな風に仕事を続けてこれるなんて、思ってなかった。
たぶん、この仲間がいなかったら、私の愚痴を聞いてくれて笑ってくれる、この仲間がいなかったらきっと、私はとっくのとうに会社を辞めていた。
辞めたい、辞めよう、と思うことがなかったわけではない。
いや、むしろたくさんあった。
けれど、私はこの仲間との交流がなくなってしまうのが、怖くて、手放したくなくて、辞められなかった。
そんな仲間ができるなんて、思ってもみなかった。
もちろん、今でも辞めたいと思うことはある。
というか、いまも現在進行形で辞めたいと思っている。
けれども、いつも頭の隅にいて、手を離さないでいてくれているのは、この会社の同期であり後輩であり、先輩だ。
だから、駅やホームでキャーキャーしている新入社員を見ていて、思うのだ。
「細く、長く、その仲間を大事にしてほしいな」と。
たとえ会社を辞めたとしても、勤務地が離れ離れになったとしても、また会えば笑いあえるような仲間を作って欲しい。
そう思う。
これから、いろんなことがあるだろう。
辛いこと、悔しいこと、自分の無力さにつまずきそうになることなんて、たくさんあるはずだ。
けれど、そこで支えてくれる、そして支えたいと思える仲間に、そして時にライバルと思える仲間を大切にしてれば、きっと、きっと社会人生活はいいものになるだろう。
がんばれ、新社会人!
そして、がんばろう、わたしたち中堅社員!笑