ぱんこの日記

ていねいなくらしのために、ゆらゆら書きます。

キヨおばあちゃんから学んだこと

「もう一週間終わったのか……」

年を重ねると、あっという間に時間がすぎるとは言うけれど、本当にそうだなぁと最近つくづく思う。体感的に言うと、一日が半日くらいに感じる。一週間は3日くらい。あれ? 計算合わないかもしれないけれど、でも、本当にそんな感じがする。この調子でいったら、すぐにおばあちゃんになっちゃいそうだ。私は、時間を大切にできているのだろうか。仕事と家の往復することを毎日毎日くりかえしているけれど、ちゃんと「今」を大事にできているのだろうか。それに、こんな毎日を送っていて、私はキヨさんに少しは近づけているのだろうか。私の憧れの女性、キヨさん。私のおばあちゃんだ。

 

キヨさんは、いつもニコニコしている。あたたかくて、ころころした笑顔だ。いつも「めぐさん」と優しい声で、話かけてくれる。私たち家族は埼玉で、キヨさんは福岡。だから、本当に残念なことに、小さいころから数えても片手で足りるほどしか会っていない。

 

そんなキヨさんが、1か月ほど我が家に滞在することがあった。あれは、私が大学生のころだから、もう10年以上前のことだ。

もともと私は、大学の授業・サークルやバイトとなぜか忙しくせわしない生活をしていた。それに加えて、大学まで片道約2時間かけて通っていたので、帰りはいつも遅かった。けれどキヨさんはそんな私の帰りをできる限り待っていてくれていた。

 

ただいま~!

めぐさんおかえり。寒かったやろ。

 

何気ないこんな会話も、私にとって幸せそのものだった。あたたかい会話。もっと一緒にいたかった。もっと話をしたかった。それなのに、私はもともとの「せわしない生活」を変えることができなかった。大学の授業も、サークルも楽しくて、友だちとの時間を優先した。もし今その時に戻れるなら、キヨさんとの時間をとるのに……。

知的なキヨさんは、なにごとにも好奇心が旺盛だった。私が毎週楽しみにしている「花盛りの君たちへ」というドラマを一緒にみては、よく分からないシーンでケラケラ笑っていた。あれは、何がおもしろかったのかな。聞きたい……。ねぇ、ばあちゃん、あれは何が面白かったの?

 

よくばあちゃんは私に、こういった。

めぐさんは、よかねぇ。これからの日本を見られるけん。これからどんな世の中になっていくんか、楽しみやねぇ。

もう80歳をゆうに過ぎているのに、世の中に対する意見をしっかり持っている人だった。これはこうやろな~、と誰に言うでもなく新聞を読みながら小さな声でつぶやいているのを聞いたことがある。笑顔の裏で、いろいろなことを考えているんだなぁ。すごいなぁばあちゃんは。優しくてあったかくて、でも博識で好奇心が旺盛で。あぁ、私はこんな人になりたい、とそのときじんわりと思った。

 

それから、8年後、私は仕事で福岡を訪問する機会があった。ばあちゃんは、福岡県宗像市の高齢者施設に入っていた。どんなに時間が少なくても、一目キヨさんに会いに行こうと決めた。

ばあちゃんには知らせない、サプライズ訪問。

私のこと、覚えているかな。分かるかな。どんな反応するかな。ドキドキしながら、ばあちゃんの部屋に向かった。

 

おそるおそる部屋に入ると、小さくなった、本当に小さくてか弱いキヨさんがベッドに横たわっていた。消えそうなくらい、か弱い。かわいそうに……。

 

私に気付くと、「めぐ……さん……?」

そうだよ、めぐだよ。ばあちゃん元気だったね。

 

とっさに、手を握った。ばあちゃんは、泣いていた。泣いて喜んでくれた。私も嬉しいよ、ばあちゃん。元気でよかった……、ずっとずっとここにいたいよ……。

 

めぐさんは、よかねぇ。これからの日本を見られるけん。これからどんな世の中になっていんか、楽しみやねぇ。

 

まただ。こんなにもう弱っているのに。またそう言っている。涙を流しながら。切に思っているんだ……。ばあちゃん、私も見せてあげたかったよ……。

 

私は、ばあちゃん孝行らしいことは、なにもできなかった。あんなに時間はあったのに。ばあちゃんとの時間は、限られていたのに。とても貴重なものだったのに。それに大学生の時の私は全く気付いていなかった。なにやってんだ、私は。

でも、あの1か月の生活も、社会人になってから会った少しの時間も、私の心にしっかりと刻まれている。私は、キヨさんみたいになりたい。そうだ、そうだった。

 

時間は限られている。それは、みんな平等だ。大切な時間を何に使うか、もっとちゃんと考えていこう。キヨさん、私はキヨさんみたいな女性を目指して、これからがんばっていくよ。

だから、キヨさん、上からちゃんと見ていてね。