ぱんこの日記

ていねいなくらしのために、ゆらゆら書きます。

トルコ人に道を教えたらキレられたのはなぜだろう

「アナタ、なぜワタシに会いたいと言わない! ワカラナイヨ!」

さっきまで楽しそうに話していたトルコ人の男が、急にキレ始めた。道案内をしただけのに……。なんで怒っているのかこっちがワカラナイよ。

 

***

「エクスキューズミー」

それは突然の出会いだった。日曜の昼下がり、私は池袋駅の中をひとり歩いているところだった。考えごとをしながら歩いていたので、周りの音や風景はあまり頭に入ってこなかった。そんな時に、聞き慣れないイントネーションの言葉がふと耳にはいってきて、瞬発的に止まらなければ、と思った。とっさに過ぎ去りそうになった足を半歩戻し、不自然に止まる。あれ、声の主はどこだ、と探ると、私の視界には身体しか見えない。どうやら思っていた以上に背が高かったようだ。154cmの私はぐっと目線を上にあげて、彼の顔をみた。おぉぉ、濃い! 顔のホリが深い! 鼻が高い! 目が大きくて髪は黒い。インド人かな? とにかく、想定外のタイプの方とのご対面だったので、一瞬たじろぐ。ただ、これはチャンス。英語を話せるではないか! 英会話を習いはじめた私は、急にテンションがあがる。

「ウェア イズ セイブライン?」

おぉ、西武線に乗りたいのね? オーケーオーケー! 今わたしたちがいる場所からはすこし離れていたため、大まかにどのあたりに乗り場があるのかをたどたどしくも説明する。なんとか伝わっていたようだったが、彼は意外にも、連れて行ってほしいと私に願い出てきた。急用もなかったので、二つ返事で快諾。西武線乗り場をめざし、一緒に歩き始めた。道中、彼は一方的に、かつかなりのスピードで自分のことを話してくれた。自分はトルコ人で、日本の車メーカーの会社で働いていること。日本に来たのは初めてで、もう4か月滞在していること。日本の他に、ニューヨーク、韓国、台湾などに行ったことがあること。とにかくすざまじいほどのマシンガントークなので、あいづちを打つひましか与えてもらえない。そうこうするうちに、西武線乗り場に到着した。なのに、彼は乗り場に向かおうとしない。なぜだ、なぜなんだ。まだ話し続けている。自己紹介が続く。止まらない。もういいよ、わかったよ。こちらの気持ちなど意にも介さず、彼は話し続ける。

「このあと30分くらいしゃべらない?」

彼は唐突にそう言った。30分……、かぁ。正直私はこの10分そこらの会話で、もうお腹がいっぱいだった。解放されたかった。

ごめんね、私、行かないと……。

「じゃあいつ会える? 明日? 明後日? いつならいいの? また会いたい」

今週はちょっと仕事が忙しくて難しい。

「日本人、みんな忙しいっていう。本当に忙しいの?」

そうだね……。ごめんなさい。

 「忙しい、忙しいって言って、本当に忙しいのか。なんで、あなた、私に会いたいって言わない! 分からない!」

なぜか、このトルコ人はキレていた。意味が分からない。どうして私が、あなたに会いたいって言わないといけない!  全然分からない。分からなすぎて、言葉が出てこない。ただ、道案内をしただけだ。なのに、今、目の前の彼はキレている。どうすればよかったのだろう。どうしたらこの状況を回避できたのだろうか。

しばらく彼は言いたいことを言い続けていた。一方的に。それを聞きながら、私は私の中で、彼がなぜ怒っているのかゆっくり考えてみた。結論から言うとどうやら彼の目的は、道を聞くことではなかった。はっきりとは言わないけれど、つまりはそうゆうことらしい。そしてたぶん私だけではなく、過去何度もこうゆうことをしているように感じ取れた。そう、西武線なんて、どうでもよかったのだ。それが目的ではない。道を聞くことをきっかけに、彼は日本人の友達を作りたかったのだ! それならそうとそう言えばいいのに、この肝心なところは言わない。一番大事な本当の目的を言わずに、自分の思い通りにならないことに腹を立てて、子どものようにダダをこねているのだ。そうと分かると、彼と分かり合えることはない。今は彼の気持ちを沈めることより、この場を早々に離れることのほうがよさうだ。こうなったらしょうがない。こちらの卑怯さを承知で、謝り侍になりとにかくあまり心のこもっていない謝罪を繰り返し、その場を離れた。

きっと、彼はトルコ生まれのジャイアンだ。私はのび太のび太は、秘密道具をかしてと言われてかしてあげたのに、返してというとジャイアンにキレられる。ジャイアンは、借りるのではなく、自分のものにしたかったの 。そんなことは知らないのび太は、殴られる。力づくで奪われそうになるなんて……。

なんやかんやと言われたけれど、この出会いは、私にとっては結構おもしろい出会いだった。いろんな人がいる。ほんとに。そして、彼が話してる英語はわりと理解できたのかもしれない。なんだか、そっちのほうが嬉しくて嬉しくて、すこしいい気分。あ、もしかして、こうゆうところなのだろうか、私がキレられるのは。タラレバ的に言うと、英語がもっと話せたら、すこし違う展開になったのかなぁ。